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「国有資産」という意味での会社法の適用問題

    葉 林

  学術及び立法上の交流が広汎に行われた結果、各国において、会社法は文面上共通している傾向がみられる。しかしながら、各国における会社法の実施状況を比較すると、「南橘北枳」という評価を与えざるを得ない。法律条文の文面が類似する一方、解釈が各自に異なる事情には多様な原因があり、たとえ政治的な要素がありながら、文化上の制限もあり、直接的な制限があるとともに間接的な制限もあり、また、正式な制限及び非正式な制限があることもその原因の一つといえる。その中で、「産権(同財産権)」[1]という要素は、中国会社法の適用にもっとも重要な影響を与えるものと考えられる。

  伝統的な法学上の概念でもない「産権」というのは、財産の所有権という意味にも限らず、株主が会社に対して所有している株の権利や最終的に会社をコントロールする権利を意味するほか、所有制及び制御(中国語原文:控制)のことをも意味する。この用語の多様な語義の中で、唯一ではないが、「株主の支配」が最も重要な意味として捉えられている。中国社会においては、国有資産(同資本)[2]が主要な生産分野に重要な地位を占めている。中国において数多くの国有株式参加及び持株会社が存在し、上場した会社の中にも国有持株会社が全体の40%~50%を占めている。

  会社法に定められた「資本多数決定」原則及び「会社自治」原則は、株主が会社運営に参与する権利を確保するとともに、会社の重要な決議に株主の決定権及び影響力を抑える役割をも有するものと思われる。国有資産が、会社資本の中で支配的な地位を占めることによって、会社の行動及び決議の決定に大きな影響力を持つには異論はない。しかしながら、国有資産には商業的な性格があることを考慮する場合、国有資産が資本(あるいは株)の過半数を占めていれば、少数派の株主は会社の運営に介入しにくくなる一方、支配された会社は株主の活動を抑える性格を有する会社に転身し、株主の利益を抑えることに努める可能性も否定できない。また、国有資産には、その他の株主にみられない政治的な好みがあると考えられる。このような好みが、全民所有制工業企業法(1988年4月13日に第7期全人代で可決、同年8月1日より施行。)及び企業国有資産法(同注2:中華人民共和国企業国有資産法、以下は企業国有資産法と略称する。)の中で十分に反映されており、会社法の中にもその意思が表れている。会社の中では、少数派の株主が、国有資産の代表者に支配されている会社の意思決定によって制限を受けざるを得ない状況もあり、会社の株主間における利益上の衝突が激化することもしばしば発生している。

  国有資産に経済的ともに政治的な性格がみられることは、会社がビジネス判断と政治判断の間に挟まされ、市場の需要に応える有効な選択をすることがしにくくなる一方、中立性を尊重すべき会社法の規則の運用に異なる実情の存在を露呈させ、その規則の運用が実際に中立していないことをも披露させた。

  まず、会社の組織構成について、(1)株主会(あるいは株主総会)が多くの権限を有する結果、客観的には株主を支配する特殊な地位となる。(2)取締役の地位に変動が生じ、派出取締役[3]は株主の代表となるのに対し、独立取締役はその独立性を喪失しつつある。(3)監察役の地位にも変動が生じ、監察役が株主(総)会の選挙で選出されるため、同じ株主(総)会に選出される取締役を監督することは困難である。以上の理由によって、株主の支配は会社の核心的意思となり、従来、企業の所有と企業自体との分離を基礎とする会社法の理論とは大きく乖離するほか、管理者が株主支配の意思に従属させられる結果にもいたる。

  次は、資本の変化について、(1)会社の株の譲渡は、企業国有資産法によって確立された国有資産譲渡の監督及び管理の規則に基づいて、有効に行われなければならない。(2)会社の合併あるいは改組も上記の規則に基づいて行われなければならない。(3)会社の資本に変更が生じた場合、政府の意思を十分に反映しなければならず、政府が事実上会社議決等の決め手となる。(4)会社の所在地に変更が生ずる場合においても、地方の経済的利益を守るため、同級地方政府の意思に従う必要があるとされている。したがって、上場会社の中では、国有資産監督及び管理に関連する「裏の取引」が生じやすい。極端的に、政府が企業の資本変動を決めるといっても過言ではない。

  また、会社の解散及び倒産について、(1)会社がすでに倒産の条件に満たした場合にも、自ら倒産手続の申請を申し出ず、その結果、優勝劣敗の市場規律は架空化にされた。(2)国有資産の代表者には、ビジネスの原因よりも政治的な原因に基づき会社の解散あるいは倒産を決める傾向があり、政府機関が改組の過程中に握る権力も一層強まる。

  最後、関連の制度については、(1)管理者の給与等は、外国において重要視されるのに対し、中国においてはインフォーマルなルートによって解決される可能性がある。(2)取締役及び監察役との相互依存関係は、取締役の責任を追及することを回避でき、管理者としての責任追及制度の創設意味がなくなる。(3)自然人持株及び法人持株とも異なり、国有資産の持株が一般性となった結果、「法人格否定ルール」の適用上にも異変をもたらす。

  産権問題は経済的問題であるのに対し、会社法は法律問題である。通常ならば、法律は経済関係を反映するのにとどまり、経済の枠組み自体の問題を解決することができない。国有持株会社の中では、ビジネスの属性よりも会社が政治的な好みに傾くということは、今後、「社会的企業」の方向に発展していくと意味するか、明確な結論までに至らない。そもそも、会社が株主を抑制する権利を法令の規定に基づいて制限すべきと主張する学者もいるが、実際には通用できるかに疑問が残る。もっとも、国有産権には効率性の要素が欠けていれば、会社全体の効率性の低下を招致しかねず、会社が社会資本を配置する役割にも影響を与えるという問題がある。

  [1] 訳者注:「産権」は、日本法上の「財産権」概念とほぼ同義で使われているが、正式には物権、債権、株権及び知的所有権等の各種財産権を含むと定義されている(2003年10月、第16期三中全会)。その中、財産の所有権のほか、財産の所有権と関連するすべての財産権を含むものとされている(民法通則第五章第一節)。特に後者については、所有権の一部が所有者と分離する場合、非所有者がその財産を基礎とする上、占有、使用及び法律に基づいて収益あるいは処分する権利のことを意味する。そもそも「産権」という概念は、国有企業の改革時に創出されたものであり、「全民所有制」という所有制度の上、所有権と切り離して国有あるいは全民所有の財産を会社が占有、使用、処分する権利のことを指す。以下、本文では、「産権」の原文を引用することとしたい。

  [2] 訳者注:国有資産とは、「国が会社に対してあらゆる形態で出資し、その資本によって形成される権益」のことである(中華人民共和国企業国有資産法2条)。また、「国有資産は、国家所有すなわち全民所有のものとする。国務院が国家を代表して国有資産の所有権を行使する」(同法3条)。以下は、同意味の場合、中国語の原文を引用することとしたい。

  [3] 訳者注:出資した国あるいは地方政府は、国有資産監督管理機構という組織を設置し、当該機構が出資者としての権限を行使する(企業国有資産法4条、11条)。すなわち、それぞれ国及び地方の政府を代表して、法律の規定に基づき、国が出資した企業において、資産の収益の享受、重大な決議の参加及び管理者の選択等の権利を有するものとする(同法12条)。国有資産監督管理機構は、人事権を有しているため、国有持株会社の株主会あるいは株主総会に取締役等の候補者を推薦することができるとされる(同法22条)。よって、国有資産監督管理機構に推薦され、国有持株会社へ派遣された管理者を派出取締役(中国語原文:派出董事)という。

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